|
ネイピア デルティックは、英国製の対向ピストン式(英語版)、バルブレス、過給型ユニフロー掃気、2ストロークディーゼルエンジンである。ネイピア・アンド・サンにより設計製作され、艦船および機関車のエンジンとして用いられた。シリンダー群は三つのブロックに分割され、三角形に配置されたおのおののブロックは、それぞれの頂点にクランク軸が位置する三角形の辺を形作る。 デルティック(ギリシャ文字のデルタの形を意味している)という語は、デルティック E.130 対向ピストン型高速ディーゼルエンジンと、このエンジンを使用したイングリッシュ・エレクトリック製機関車の双方を指して使われている。これには評価機であるという名の機関車と、(TOPS)と呼ばれる英国国鉄向けの量産型があった。 さらにまたと呼ばれるイングリッシュ・エレクトリック製 Type2 機関車でも、ハーフサイズのターボ過給器付きデルティックエンジン一基を特徴としていた。この機関車とエンジンのいずれも”ベビー・デルティック”としてよく知られるようになった。 == 歴史とデザイン == デルティックの物語は1943年に英国海軍本部が、高速魚雷艇で使用する高出力軽量ディーゼルエンジン開発のための委員会を発足させたところから始まる。英国海軍では従来、この種の艦艇にガソリンエンジンを使用していたが、この燃料は非常に引火性が強く、火災に対して脆弱であった 。そしてドイツのディーゼル動力を備えたEボートと比較したときの弱点となっていた。 この時代のディーゼルエンジンはパワーウェイトレシオが低く、また低速であった。第二次世界大戦開戦までネイピアは、の名で知られるのライセンス版をベースにした航空機用ディーゼルエンジンの開発に取り組んでいた。カルバリンは対向ピストン式、2ストロークの設計であった。Jumoをベースにしたこのデザインでは、一般的なエンジンに見られる、一端がシリンダーヘッドでふさがれたシリンダーにひとつのピストンを設けるかわりに、中央に向かって対向して動く二つのピストンを収めた細長いシリンダーを用いる。この方式では重いシリンダーヘッドの必要がなく、対向ピストンがその役割を果たす。反面、このレイアウトではエンジンの両側にそれぞれクランク軸が必要となり、単一の軸に出力をまとめて取り出すためには、なんらかのギアトレーンが必要となるという欠点がある。このデザインの最大の利点は、大型航空機の主翼に埋め込むことを意識した、より"フラットな"エンジンを作れることにあった。 海軍本部はさらにもっと強力なエンジンを要求しており、またユンカースによる直列6気筒やダイヤモンド配列での複クランク軸エンジンの設計についても知っていた。海軍本部は、かれらが要求するもっと大型のデザインにとって、こういった設計が順当な出発点になりうると考えていた。その結果が、辺をなすシリンダーバンクが頂点となる3本のクランク軸のそれぞれに接する三角形であった。クランク軸同士は位相歯車によって結合され、単一の出力軸を駆動する。この構成は6個のピストン群が3本のクランク軸を駆動するが、これは全体では同程度の体積の3基の独立したV型エンジンと同様である。シリンダーの数を変えることで、様々なデルティックエンジンのモデルを作ることができるが、実際にはシリンダーバンク3組ないし6組を備えた、9気筒と18気筒のモデルが最も一般的であった。1946年に英国海軍本部は、このエンジンの開発に関する契約をネイピアの親会社であるイングリッシュ・エレクトリックと結んだ〔。 このエンジンの特徴のひとつは、排気ポートの進相と給気ポートの遅延を持つようにクランク軸の位相を構成する方法にある。シリンダーへの新気の流入と排気の流れが(シリンダー排出ガスの掃気作用を改善するための軽い過給に助けられて)一方向であることから、このようなエンジンのことをユニフロー掃気ディーゼルエンジンと呼ぶ。給気/排気ポートの順序は三角形の周囲を回る方向に給気/排気/給気/排気/給気/排気となっている(すなわち給気と排気のマニホールドの配列はC3回転対称性を備えている)〔End on image of Deltic type engine with exhaust manifolds exposed (via the Deltic Preservation Society - Baby Deltic project) ''thedps.co.uk''〕。 このようなエンジンを設計するにあたって初期の試みで直面したのが、デルタを構成する3本のシリンダー内のすべてのピストンが、正しいシーケンスで動作するように配列することの困難さであった。そしてこの問題こそがユンカース・モトーレンバウ社が、三角形配列をあきらめてダイヤモンド配列、4クランク軸、24気筒のユンカース Jumo233試作機の製作を進めた原因であった。海軍本部技術研究所付き上級製図者のMr. Herbert Penwardenが、正しいピストン位相を実現するためには1本のクランク軸が反時計回りに回転する必要があることを指摘した。そこでネイピアの技術者たちは、そのうちの1本を他の2本とは逆方向に回転させるのに必要なギアトレーンを製作した。 給気弁も排気弁も持たない対向ピストン式のデザインであり、またポートの位置を変更する機能も持たないことから、デルティックエンジンのデザインでは、おのおののクランク軸に、同一平面の異なるシリンダー内で動作する隣接した二つのピストンを"fork and blade"コネクティングロッド(二股コンロッド)を用いて接続するように構成する。後者(blade側)の”給気ピストン”は給気ポートを開閉するのに使用され、前者の(隣接するシリンダー内にある)”排気ピストン”は排気ポートを開閉するのに使われる。このことから、おのおののシリンダーバンク内での点火時期は60度の隔たりを持つことが導かれる。 しかしながら、それぞれのシリンダーの排気ピストンは、その給気ピストンよりクランク軸の回転角20度だけ進む配置にするように決められた。これによって排気ポートは給気ポートよりも十分に早く開くことができるようになる。これにより掃気量が向上し、また給気において良好な掃気効率を得ることができるようになった。 そうすると隣接するシリンダーの着火は40度の隔たりで起こることになる。18気筒のデザインでは、着火を6組すべてのシリンダーバンクの間で交錯(インターレース)させることができ、これによりデルティックエンジンは、クランク軸が20度回転するたびに起こる給気と着火によって、一様なぶんぶんという排気音を出し、また捩れ振動が生じないため掃海艇には理想的なエンジンとなった。 9気筒のデザインでは3組のシリンダーバンクを持ち、そのクランク軸は反対方向に回転することに留意する必要がある。20度の排気の進相がバンク間の60度に加算されることで、同じバンクの隣接したシリンダーの点火は80度の隔たりになる。着火を3組すべてのシリンダーバンクの間で交錯(インターレース)させることで、同じようにクランク軸が40度回転するたびに起こる給気と着火による一様なぶんぶんという排気音を出し、これとともに捩れ振動を軽減する。 このエンジンはシリンダーポート(ピストンバルブ)方式であり、ポペットバルブを必要としないにも関わらず、バンクごとにクランク軸と等速のカムシャフトが設けられている。これは燃料噴射ポンプを駆動するためだけに使用され、各シリンダーは自分専用のカム曲線によって駆動される独立したインジェクター(ノズル)とポンプを備えている。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「ネイピア デルティック」の詳細全文を読む スポンサード リンク
|